2016年7月29日
ふるさと探訪 連載にあたって
あさぎり町中部ふるさと会 前会長 杉下潤二
「ふるさと探訪」は週に一回、原則として土曜日に発信いたします。連載にあたって、記述内容については十分に精査し、個人のプライバシーや出典については最大限の配慮を致しましたが、見落としや不用意な点にお気づきの場合はご一報いただければ幸いです。第1回から第25回までのタイトルと内容はおよそ以下の通りであります。連載途中で読者等からのご指摘やご質問があり、回答や補足説明が必要で後回しできないと筆者が判断した場合は、掲載予定に割り込む場合もあることをご容赦いただきたいと思います。
第1回目のふるさと探訪は、球磨んモン:「の」を「ん」という球磨弁の話。
第2回〜6回は、妙見宮:奇祭の八代妙見祭と八代河童渡来伝説の話。
第7回は、八代海(不知火海)の謎:不知火ではなく海丘群のなぞ
第8回〜10回は 球磨川:球磨川は夕葉川・木綿葉川、球磨は求麻の話。
第11回〜13回は、庚申信仰:300年前の人吉球磨地方民間信仰の話。
第14回〜15回は、相良三十三観音:ご利益知っての観音巡りの話。
第16回は、深田銅山:知られざる鉱毒とお地蔵さんの婚儀祝いの話。
第17回〜18回は、球磨の飛行場:海軍と陸軍、二つあった飛行場の話。
第19回〜20回は、百太郎溝と幸野溝:不毛の土に水を引いた先人の話。
第21回は、天草から人吉球磨地方への移住政策と少し引っかかる話
第22回〜23回は、古代地質ミュージアム:古代地層のある風景の話。
第24回は、断層と人吉球磨地方を震源とする地震発生の可能性
第25回は、球磨川の名を付した軽巡洋艦「球磨」の最後と今。
第1回 ふるさと探訪 球磨んモン
熊本県のマスコットキャラクター「くまモン」は有名である。くまモン公式サイトのプロフィールによると、その名前は「熊本者(くまもともん)」からきているとのことである。熊本弁では○○者(人)を○○もんと発音するからである。島原とか人吉・球磨地方では「の」を「ん」と発音する。たとえば、有名な「五木の子守歌」の歌詞には「の」を「ん」としている箇所が幾つもある。
♪おどま かんじん かんじん あん人達ゃよか衆 よかしゃ よか帯 よか着物(きもん)♪。また、「正調・五木の子守唄」の歌詞には、♪おどま お父つぁんなあん山おらす おらすともえば 行こごたる・♪などである。この「あん人達や」や「あん山」の「あん」は「あの」であり、「きもん」は「きもの」である。
島原地方も球磨弁とよく似ていて、「島原の子守歌」にも、粟(あわ)ン飯、嫁御(よめご)ン紅(べ)、山ン家(ね)、船ン底、あン人たち、どこン金、などと「の」を「ん」と発音させている。
球磨郡あさぎり町出身で日本クラウンの松山順さんが作詞・作曲した「球磨の女(ひと)」は、前述のように「の」は「ん」であるから「球磨ん女(ひと)」になる。この方が人吉球磨地方ではなんとなく馴染み深い。
したがって、「球磨んモン」は「球磨の者:球磨の人」の意味であり、くまモンが熊本県民であるなら、「球磨んモン」は人吉球磨人である。「球磨人」といえば、熊本県球磨郡錦町在住の小野寺二郎(本名:久保寺二郎)さんの著作「球磨人のロマンを尋ねて」によれば、「球磨人」は「くまびと」と読ませ、魏志倭人伝にある「狗奴国くなこく」人であるという。であるならば、「球磨んモン」は古事記にある「熊曽くまそ」人であり、日本書紀では「熊襲くまそ」人、筑前国風土記では「球磨囎唹くまそお」人と言えるのではないかと筆者は思う。
われわれ球磨人のルーツである「球磨んモン」は、やはり肥薩線に乗って人吉球磨盆地へ移住してきたのであろうか。やはり、というのは、筆者は以前に「縄文人は肥薩線に乗って」を熊日新聞社より出版し、人吉球磨盆地の成り立ちと旧石器時代人や縄文人がどのようなルートでこの人吉球磨盆地に移住してきたかを遺跡分布から推考したからである。その結論は、旧石器時代の遺跡分布から、3000年前の人吉球磨人は八代方面からではなく、出水や伊佐方面から久七峠や堀切峠(ほりきりとうげ)を越えてやって来たことが分かった。
今回は、弥生時代以降も、本当に八代方面や球磨川下流から人吉球磨方面への人や文化の移動はなかったのか、その確認も含めて出発を八代海(不知火海)や八代市から球磨川を遡(さかのぼ)ることにした。時代は弥生時代から昭和の時代ぐらいまでに絞り、人吉球磨地方の自然事象と町や村の習俗文化を尋ね、さらに江戸時代の鉱山や戦時中の飛行場のことなどについて推考し、祖先「球磨んモン」のルーツを見出せないかを探るものである。
筆者は、人吉球磨の観光案内人でもなく郷土史家でもない。郷里を離れた多くの人が見落としていた、気づいていなかった郷土のことを少しでも知っていただくために準備したものである。読者諸氏におかれては、ふるさと再発見の旅に出向かれる機会があれば拙文をご参照いただければ幸いである。
<つづく>
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