2016年11月 5日
相良三十三観音巡りの起源については面白い話が伝わっている。それは奈良時代の718年、大和国の長谷寺(桜井市にある真言宗豊山派総本山の寺)の開基である徳道上人が60歳ぐらいで病死し、冥土の入口で閻魔大王(えんまだいおう)に会った。生前の罪業によって地獄へ送られる者があまりにも多いことから、何とかならないかと聞いたところ、閻魔大王は、日本にある三十三箇所の観音霊場を巡れば滅罪の功徳があるので救われるといい、それを実行するよう便宜を与え、上人を現世に戻されたという。
相良三十三観音だけでなく、全国には、「西国三十三観音」や「坂東三十三観音」など幾つかの観音信仰の霊場がある。まず、三十三観音の「三十三」の意味である。確か第3回のふるさと探訪、八代妙見宮のページで、「妙見さんは680年ごろ、目深・手長 ・足早の三神に変身して中国の寧波の港から亀蛇に乗って八代の竹原の港に来られた」と書いたが、実は、観音様も三十三種に変身し、衆生の悩みに応じて救済するのだそうである。この観音三十三変化身の数字に意味を持たせて観音三十三霊場とか三十三間堂が作られるようになったというわけである。ところで、仏教では、輪廻転生(りんねてんしょう)において、その業(ごう)によって六道(ろくどう)がある。六道は、1地獄道・2餓鬼道・3畜生道・4修羅道・5人間道・6天道である。このうちとくに畜生道,餓鬼道,地獄道は三悪道といわれ、天道は天人の世界で人間の世界の人道より楽多く苦の少ない世界である。この六道それぞれの民衆を救う6体の観音さまがおられる。地獄道に聖(しょう)観音、餓鬼道には千手観音、畜生道には馬頭観音、修羅道には十一面観音、人間道には不空羂索(ふくうけんじゃく)観音、天道には如意輪観音である。ここで、不空羂索観音の「不空」とは、信じれば必ず願いが叶い空しい思いをさせないという意味で、「羂索」とは古代インドで密猟や戦闘に使われた捕縛用の縄のことである。その姿は、腕8本で3つの目があり、シカの毛皮を身に纏っている。相良三十三観音堂にはどのような観音様が祀られているのか調べてみた。結果は次の通りである。
1) 清水観音(きよみず)……千手観音……人吉市
2) 中尾観音(なかお)……千手観音……人吉市
3) 矢瀬が津留観音(やぜがつる)……十一面観音……人吉市
4) 三日原観音(さんじがはる)…… 聖観音……人吉市
5) 鵜口観音(うのくち)…… 十一面観音……球磨村
6) 嵯峨里観音(さがり)……十一面観音……人吉市
7) 石室観音(いしむろ)…… 聖観音……人吉市
8) 湯の元観音(ゆのもと)…… 聖観音……人吉市
9) 村山観音(むらやま)……千手観音……人吉市
10) 瀬原観音(せはら)……聖観音 ……人吉市
11) 永田(芦原)観音(ながた:あしはら)……聖観音……人吉市
12) 合戦嶺観音(かしのみね) ……聖観音…… 山江村
13) 観音寺観音(かんのんじ)…… 聖観音…… 人吉市
14) 十島観音(としま)…… 聖観音…… 相良村
15) 蓑毛観音(みのも)……十一面観音……相良村
16) 深水観音(ふかみ)…… 聖観音……相良村
17) 上園観音(うえんそん)…… 聖観音…… 相良村
18) 廻り観音(めぐり)……聖観音……相良村
19) 内山観音(うちやま)…… 千手観音……あさぎり町
20) 植深田観音(うえふかだん)…… 聖観音……あさぎり町
21) 永峰観音(ながみね)……如意輪観音……あさぎり町
22) 上手観音(うわて)……聖観音…… あさぎり町
22) 覚井観音(かくい) ……十一面観音……あさぎり町
23) 栖山観音(すやま)……千手観音……多良木町
24) 生善院観音(しょうぜんいん)……聖観音……水上村
24) 龍泉寺観音(りゅうせんじ)……聖観音……水上村
25) 普門寺観音(ふもんじ)……六観音……湯前町
26) 上里の町観音(かみざとのまち)…… 聖観音……湯前町
27) 宝陀寺観音(ほうだじ)……十一面観音……湯前町
28) 中山観音(なかやま)……聖観音……多良木町
29) 宮原観音(みやはら)……聖観音……あさぎり町
30) 秋時観音(あきとき)……十一面観音……あさぎり町
31) 土屋観音(つちや)……聖観音……錦町
32) 新宮寺観音(しんぐうじ)……六観音……錦町
33) 赤池観音(あかいけ)……聖観音……人吉市
このように、相良三十三観音では、地獄道に落ちた人を救う聖観音が20か所、修羅道の人を救済する十一面観音が7か所、餓鬼道の人を救う千手観音が5か所、最も幸せな天道の人救済の如意輪観音はあさぎり町深田の21番札所である永峰観音(ながみねかんのん)1か所だけである。そして、六道すべの人を救済する六観音がみえるのは2か所である。人吉球磨地方では、地獄道救済の聖観音を置く御堂が最も多く、20か所もある。この地方の人達の現世での辛苦と輪廻転生への願いが込められているのだろう。これからは、このようなことを念頭において三十三観音巡りをしては如何であろう。付言すると、あさぎり町の「上手観音」と「覚井観音」は同じ22番札所である。また、水上村の「生善院観音」と「龍泉寺観音」は同じ24番札所である。この同番のいきさつについては探ればエピソードがありそうであるが、やめておこう。いきさつがどうであれ、相良は三十三観音ではなく、実数は「三十五観音」である。確か、番外ながら趣のある観音堂もあるが思い出せない。不思議なのは、五木村に札所としての観音堂が見当たらないことである。
≪続く≫
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