2017年5月19日
前回は球磨人の生業((なりわい:生きていくための仕事)としての田園が朝霧に包まれた風景を紹介した。今回は、人吉球磨地方の葉タバコと茶畑風景を紹介しながら、ヨケマン談義をしよう。
まず、葉タバコ、タバコの話からである。JT(日本たばこ産業株式会社)の2007年度、国産葉タバコ買い入れ実績によると、1位は熊本県(4191トン)、2位は宮崎県(3805トン)、3位は青森県(3676トン)、4位は岩手県(3674トン)、5位は鹿児島県(2705トン)と、九州は葉タバコ王国である。中でも、あさぎり町の葉タバコ生産量は県下でナンバーワン、全国でも5番目である。ちなみに、1位は沖縄の宮古市、2位は岩手県の二戸市、3位は宮崎市、4位は長崎県の南島原市である。実は、球磨郡あさぎり町の筆者の生家も葉タバコを作っている。図1は、前回示した朝霧に包まれた幼苗の葉タバコが成長し、収穫期を迎えたあさぎり町の風景である。
図1 葉タバコの収穫期 出典:あさぎり町HP
タバコ葉には成分として、有毒で習慣性の強いニコチンが含まれている。タバコに含まれる有害物質によって引き起こされる様々な病気は、うつ病・心筋梗塞・動脈硬化・高血圧・糖尿病・メタボリックシンドローム・胃がん・骨粗しょう症・脳卒中・食道がん・喘息・肺がん・肺炎・子宮頸がん・乳幼児突然死症候群・・数えきれないほどである。ついに、2016年、厚労省の研究班は「受動喫煙で年間1.5万人死亡」と報告した。故事ことわざに「百害あって一利なし」というのがあり、タバコがその接頭語となり、「タバコは百害あって一利無し」といわれ、禁煙とか嫌煙とか喫煙者にとっては肩身の狭い時代となっている。タバコは本当に「一利」もないのだろうか?
1966年、JT(日本たばこ産業株式会社)やたばこ生産組合を安堵させるような研究報告がなされた。それは、アメリカのKahnとHammondという人の研究成果で、喫煙によりパーキンソン症状の改善が認められ、喫煙率とパーキンソン病の発生率に負の相関があるというものである。この報告をもとに、1968年には、同じアメリカのNefzgerという研究者らが、初めてパーキンソン病患者の喫煙率を検討した。その結果、パーキンソン病患者において喫煙率が低いことが示され、彼ら二人の研究成果が追認された。わが国でもこの結果について、新潟大学脳研究所神経内科や1986年に設立された公益財団法人の喫煙科学研究財団の研究においても、ニコチンが神経伝達物質のドパミン神経を活性化する作用をもつことをいくつかの実験で追認された。パーキンソン病というのは、50歳 代後半を発症のピークとし、手足の震えや硬直、動きにくさ、姿勢保持や歩行の障害などを主な症状とする原因不明の神経変性疾患である。
球磨地方の水上、五木、相良、山江、球磨などの山間部には茶の木が広く自生していた。筆者の生家近くでもよく見かけ、新芽が萌え出る頃は祖母と茶摘みをした記憶がある。摘んだ茶葉は、図2のように、大きな鉄鍋で炒って莚(むしろ)の上で揉(も)み、また炒って揉む、最後に乾かして図3のような茶壺にいれ貯蔵した。
その釜炒り茶の製法が今でも宮崎県の五ヶ瀬地方や上益城郡の山都(やまと)町馬見原地区で行われている。山都町馬見原地区と五ヶ瀬町は直近である。
図2 釜炒り茶の手炒り 出典:www.bancya.com 図3 筆者家の茶壺
球磨地方の茶は、昭和5年にあさぎり町上や錦町において本格的な茶園造成が始まり、昭和30年代に入って高原台地に茶が植えられ、大規模な集団茶園が形成された。今では大型機械の導入も進んで生産量は増大した。現在、熊本県の生産量の1/3を球磨茶、相良茶、人吉茶、五木茶が占めるようになっている。高原台地や相良村に足を運ぶと図4に示すような広大な茶畑が続いている。
今日では、お茶といえば蒸し製茶であり、釜炒り茶は全体では5%ほどでしかない。しかし、中国から伝わったお茶は古来より釜炒り製茶である。釜炒り茶は香りがよく、渋み成分であるカテキンの割合が14〜18%と蒸し茶より平均3%ほど高い。五ヶ瀬には目の玉が飛び出るほどの高級釜炒り茶があり、木箱入りだと¥6,048、通販ショップに出ている。 <続く:次回は焼酎>
図4 錦町高原台地の茶畑 図5五ヶ瀬の釜炒り高級茶 ¥5,400
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