2018年7月 4日
2.「たくわん漬け」
お茶請けの代表選手であった「たくわん漬け」の話からはじめよう。筆者が中学生の頃(昭和26年前後)は、まだ学校給食はなく、弁当持参であった。弁当のオカズは決まって梅干し1個と数切れの「たくあん」であった。冬場は弁当を温めるボックスが学校の廊下の片隅においてあり、下に置かれた木炭による温め箱(ぬくめばこ)であった。温まってくると弁当箱の中の「たくあん」が匂いだし、この匂いは、弁当が適度に温まったことを知らせる合図でもあったが、相当な匂いであった記憶がある。いずれにしても、漬物は手作りと保存が可能であり、唯一誰でも食することのできたオカズであった。当時の球磨地方の漬物の横綱格は「たくわん漬け」と「高菜漬けの油炒め」、それに「味噌漬け」であろう。
「たくあん」は沢庵(たくあん)和尚が創案したといわれる大根の漬物である。「たくあん」という名前の由来についての面白い伝承がある。沢庵和尚は安土桃山時代の禅宗の一つ、臨済宗の僧侶である。その臨済宗本山の大徳寺の首座を務めた高僧であった。沢庵和尚は、常日頃から大根を「たくわえ漬け」にしていたようである。あるとき、徳川家光(江戸幕府の第3代将軍)が訪ねてきたとき、その大根の「たくわえ漬け」を出したところ、大変気に入り「たくわえ漬けにあらず、沢庵漬けなり」と言ったことによって、そう呼ばれるようになったとのことである。
「たくあん」は、大根を乾燥させて食塩と米糠を混ぜたものに漬けるが、防腐や味つけを兼ねて唐辛子を添える。乾燥の程度はたくあんの歯切れに影響し、遅く食べるものほどよく乾燥させ、また長期貯蔵のものほど食塩の割合を多くする。長期保存用の「本たくわん漬」は 11月〜12月にかけて漬込む。日当たりのいい軒先にぶら下げておくと、曲げても折れないくらい柔らかさになる。それを揉みほぐして樽に漬け込むのであるが、漬け方は周知のことであるから省略する。黄色付けには市販の着色剤もあるが、筆者はクチナシの実を潰して入れた。私の好みの味は、少し臭いくらい発効が進んだたくあんの古漬けである。そのままでも美味であるが、それを輪切りにして煮物(佃煮)にしたものが図2の右端で、昔懐かしふるさとの味である。
作り方は、古漬けの大根を輪切りして、塩抜きのため一晩、水に浸しておく。水切りしたのちゴマ油で炒め、出し汁に醤油や砂糖を入れて柔らかくなるまで煮込む。このような、たくあんの煮物は、京都、滋賀、三重、それに北陸3県(福井、石川、富山)で行われているが、三重県では「あほ炊き」とちょっと失礼な名前がついている。筆者の母親は、甘辛く煮付けた「たくあんの佃煮」と言っていた。
図2大根の古漬けと佃煮
3.「高菜漬」と「・・油炒め」、「高菜めし」
「たくあん」は全国各地にあるため、あまり「ふるさとの味として」独り占めしてしまうのは気が引けるし、ふるさと感も薄い。しかし「高菜漬けの油炒め」は違うのである。
高菜は中央アジアが原産といわれるアブラナ科の葉野菜で、カラシナの一種だから少しピリッとする。日本には中国から九州に入ってきて各地に広まり、すでに平安時代には栽培されるなど、古くから日本に定着していた野菜の一つである。「高菜」には幾つかの品種があり、葉の色が緑の「青高菜」や葉に紫色が入った「紫高菜」が一般的であるが、長崎県雲仙市で栽培されていて、茎がこぶ状に丸まる「雲仙こぶ高菜」もある。高菜は主に漬け物に使われ、「高菜漬け」は「野沢菜漬け」や「広島菜付け」と共に日本三大漬け物と言われている。
その高菜漬けの高菜は九州だけではなく、和歌山県など紀伊半島では漬物用として知られた野菜ではある。その代表が「めはり寿司」である。「めはり寿司」は和歌山県と三重県の熊野地方、および奈良県の吉野地方の郷土料理であり、高菜の浅漬けの葉でくるんだ弁当用のおにぎりである。以前は麦ご飯であったが、この頃は白米になり、奈良・和歌山地方の「柿の葉寿司」と同じようにオヤツ替わりに販売されている。和歌山地方の高菜は「浅漬けの高菜」であることが九州の高菜漬けとは大きく異なる点である。九州では、浅漬けではなく、十分漬け込まれた高菜の葉で包んだ握り飯を食べた思い出を持っている人は多い。
九州の高菜漬けは、何といっても福岡県みやま市高瀬の高菜漬けであろう。高瀬には、深さ2mの漬物桶に1トンの重石を乗せ、着色はウコン、年間150トンの漬け込みをするという「たかな工房;坂本食品工業所」がある。高菜漬けは、その油炒めである。博多の露店ラーメンでは、胡椒のたっぷりきいた高菜炒めが山盛りにして並べてあり、客は好みの量を取り、食べる風景が見られる。
ここで、高菜漬けをおさらいしておこう。図3の左が畑の高菜、葉が青い「青高菜」である。図は省略するがシソ葉のような赤っぽい葉が「紫高菜」である。この二種類かと思っていたら、近年、雲仙地方で」栽培されていた「雲仙こぶ高菜」があり、あさぎり町でも栽培されるようになっている。図の中央が漬けこんで一か月目の高菜の浅漬け状態、右端が1年位漬け置いた高菜の油炒めである。
図3 高菜漬けと高菜の油炒め
畑から抜いてきた高菜は1日ほど天日に干し、ぐったりした状態で漬け込むが、所によっては、塩を葉の間にまぶしながら揉み、樽に漬け込む。漬け込むときに刻み昆布や鷹の爪を入れる。塩加減だが、これは高菜の食べ方や保存の有無によって異なる。最も標準的な塩加減が、1日干した高菜10キログラムに対して塩は800グラム、事前に塩もみする場合でも、この800グラムの中で賄う。
漬け方は、樽にビニール袋を入れ、高菜を敷き詰め漬けていくのであるが、1段おきに切り昆布と唐辛子と残りの塩を加えながら積み重ねていく。なか蓋を置きビニール袋を閉じて重石(総重量約15キログラム)を乗せる。約1か月で早漬け状態となり食することができるが、高菜漬けの真価は発酵状態まで待つことである。長期保存による発酵に耐え酸っぱく腐敗させないためには、塩の分
量を倍増する。塩辛いときは、調理する前に水に数時間浸せば塩抜きができる。
高菜の油炒めは漬物桶(容器)から高菜を取り出して水洗い、よく絞り、塩加減が良かったら、よく絞って水分を抜いて小刻みにする。高菜飯など混ぜご飯風に利用する場合は、細かく切った方が混ざりやすい。小刻みにした高菜をフライ
パンで炒め、砂糖など加えて好みの味に仕上げれば油炒めの出来上がりである。沢山できた場合は瓶詰にして冷蔵保管すればよい。九州自動車道の山江SAでは、この油炒めを使った「高菜めし」がメニューの一つにある。
・「高菜めし」は、炊き立てのごはんに高菜油炒めを混ぜただけのものでもあるが、本格派の「高菜めし」の作り方はこうである。
・高菜漬け200g〜250g・ウインナー 1〜2本・にんにくみじん切り 1片分
・和風だしの素 小さじ2 ・砂糖 大さじ1.5 ・醤油 大さじ1・ゴマ油 適量
・冷飯 茶碗4杯 ・作る量は2〜3人分である。
作り方:1)ウインナーをみじん切りしておく(ウインナーの代わりに豚のひき肉でもいい)。2)フライパンにサラダ油をひき、ニンニクを入れて炒める。香り立ってきたらウインナーを油が回る程度に炒めて、そこに高菜漬けを入れて軽く炒める。3)そこに和風ダシと砂糖を加え照りが出るまで炒める。照りが出て、全体が馴染んだところで醤油を回し入れて、ご飯も加えて軽く塩コショウをする。4)木杓子でご飯を細かくして薄く広げるように固まりを無くし、上から少量のゴマ油を垂らして全体に広がる感じに炒めていく。 全体がキレイな高菜色に炒めれば出来上がり!
(つづく:次回は、ネギの酢漬け、味噌漬け、干し味噌)