2018年7月 6日
4. ネギの酢漬け
ネギは、3000年もの昔から中国では栽培され、日本へも朝鮮半島あたりから伝来し、すでに奈良時代には栽培されていたことが奈良時代に編纂された「日本書紀」からわかる。それ以来、ネギは味噌汁、冷奴、 蕎麦、うどんなどの薬味として用いられてきたほか、鍋料理に欠かせない食材のひとつとなっている。ただ硫化アリル成分を含み、特有の辛味と匂いを持っている。この硫化アリルというのは、タマネギを切ると目が痛くなる、あの成分である。
さて、ネギの漬物の話であるが、人吉球磨地方では漬物としての食習慣はあまりなかったのか、前述したお茶請けの漬物に出された記憶はない。しかし、年代によっては、昔懐かしの味になっている。人吉の出身で関東在住の高梨さん教えてもらったネギの酢漬けを紹介しよう。
まず、洗ったネギの根本を切り落とし、外皮を取り除き、容器サイズに合わせてカットし、容器に収めたら漬物用酢やかんたん酢を注ぎ込むだけである。
図4 ネギの酢漬け
好みによって切り昆布や鷹の爪、砂糖などを入れる。食べれるまでに、白根の部分は一週間ほどかかるが、葉の部分は二日ほどで可能。シャキシャキとして、ネギの臭みや辛味は全くない。図4は筆者が漬けた4日目のものである。
5. 味噌漬け
近年の人吉球磨地方で味噌漬けと言えば、五木村の名産「とうふの味噌漬け」と水上村の「市房漬」である。まず、この「とうふの味噌漬け」、土産に持っていくと貰う方が「豆腐の味噌漬け?」といって驚かれる。この品の歴史は、五木屋本舗の前身「五木かやぶき茶屋」の創業が平成3年というから、そう古いわけではない。 しかし、「豆腐の味噌漬け」は五木村で約800年間受け継いでこられた伝統食品だそうで、1200年頃に平家の落武者によって保存食として利用されたことが発端であると伝えられている。
味噌漬けとは、野菜、肉、魚などを味噌に漬けたものであるから大豆からつくる豆腐の漬物があっても不思議ではない。しかし、人吉球磨地方の味噌漬けは、大根、人参、牛蒡、瓜、茄子、生姜などの野菜が主である。海産物では唯一昆布が味噌漬けにされるくらいである。その典型的な味噌漬けの例を図5に示した。
図5 典型的な野菜中心の味噌漬け
図6 市房漬け(出典:下村婦人会公式HP)
基本的に、「味噌漬け」は、半年から1年近く塩漬けにして、水分が十分に抜けた後、味噌に漬け換えたものが「味噌漬け」で長期保存が可能になる。豚ロースや鶏肉、それに鰤(ぶり)を味噌漬けにして保存食にする余裕などは田舎にはなかった。近頃の「卵黄の味噌漬け」などは全くの想定外であった。ここでは、農家の人達が、畑で取れるものは何でも味噌漬けにして保存し、年中食べれるようにしていた味噌漬けについて書いておこうと思う。
球磨地方で伝統的味噌漬けといえば、やはり水上村の「市房漬」であろう。図6に示すような、大根、人参、きゅうり、しょうが等「野菜の味噌漬け」である。昔は、この地方では味噌醤油は自家製であった。筆者の実家でも大きな樽やモロブタ(糀箱)あり、専用の「味噌部屋」があった。祖母の作る味噌漬けは、その醤油の搾りかす等に潜り込ませて漬けていたような気がする。
6.干し味噌
味噌漬けとくれば、やはり次は、干し味噌である。筆者も干し味噌は懐かしいオカズである。と言うのは、昔の家ではたいてい味噌醤油は自家製であった。我が家でも醤油の搾りかすはユノス(柚子)の皮をみじん切りにしてまぶし、丸めて天日に干し、干し味噌をつくり、オカズの保存食にした。
ある帰省のおり、郷土の変わった特産品をお土産にと思って、干し味噌を買い求めてきたのだが、家族はその異様な姿形に「これ何?」と仰天、しばし冷蔵庫で冬眠する羽目になってしまった記憶がある。
球磨地方の干し味噌は、湯前町やあさぎり町須恵地区で作られている。そのうち、湯前町下村婦人会の干し味噌は、醤油の搾りかすに胡麻、唐辛子、柚子や生姜などをまぶして丸め、干し固めたものである。須恵地区の干し味噌も似たような製法で、一番醤油をとった後の醤油ガラに柚の皮やショウガ、ゴマ、こしょうなどをすり入れて小さな団子状態にして干したものである。図7の左は下村婦
図7 湯前の干し味噌(左)と須恵の干し味噌(右)
図8 干し味噌作り、左:天日干しのもの 右:丸めて成型したもの
人会の干し味噌、右があさぎり町須恵地区の干し味噌である。下村婦人会の方のプログによると、干し味噌はスーパーでも売っているとのことで、少しあぶって
ほぐしご飯にかけて食べるのがポピュラーだそうで、ほぐして粉状にして冷凍しておけば、必要なとき味噌より溶けやすく隠し味(醤油と味噌の味)として使えるそうである。また、マヨネーズに混ぜたり、チャーハンにかけたり、ぎょうざ の種に入れるなど奥行きのある味で、使い道が多様とのことである。
筆者も干し味噌づくりに挑戦してみた。以下、湯前町下村婦人会の方のプログや熊本県総合博物館ネットワーク・ポータルサイトに掲載されている須恵の干し味噌レシピを参考にした。醤油の搾りかすなどないが、味噌は田舎味噌を兄が送ってくれた。ゴマは比較のため、白ごまと黒ゴマをスーパーで購入、鷹の爪は今年の菜園の収穫品で、十分に乾燥させ、ミキサーで粉砕したものを使うことにした。作り方は簡単である。味噌にゴマを適宜加え、ごみや汚れが付着しないような場所で天日に干す。筆者はビニールハウスの中で干した。丸めれる程度に乾いた時点で団子状に丸めて成型、干し上がると完成である。好みに応じて、あらかじめ、柚子の皮を細かく刻み、味噌に混ぜ込むと香りがよい!
図8左は、天日干し中のもので、左端は白ゴマまぶしの生糀(なまこうじ)味噌、中央は白ゴマまぶしの「甘口もろみ」、右端は、黒ゴマまぶしの「甘口もろみ」である。図8右端は、三日ほど干したものを丸く成型し乾燥中のものである。天気が良ければ一週間ほどで干し上がり、冷蔵保存できる。
(つづく:次回は、酢サバまぜご飯、煮しめ、芋がら)
杉下潤二 junji@siren.ocn.ne.jp