2018年7月24日
・おやつ
先ずは、「おやつ」の語源である。昔の日本の時刻制度においては午後の2時頃を「やつどき:八つ時」と言った。ついでだから、江戸時代の時刻は、日の出の時刻が「六つ時:明けの六つ」、お昼の正午が「九つ時」、夕方の六つ時は「暮れの六つ時」という。江戸時代の食事は一日に朝夕の2回で、その間の間食が午後の2時頃の「おやつ」なのである。午後2時頃を意味する「八つ」が「お八つ」→「おやつ」と呼ぶようになった。したがって、「おやつ」は、お菓子や果物に限定する必要はなく、球磨郡の「ヨケマン」みたいなものである。
昔懐かしふるさとの味については、沢山の方から情報をいただいた。重複している場合が多く、このことは、皆、同じ思いだったことの証である。昔懐かしいおやつに共通しているのは、素材が小麦粉であり、カライモ(唐芋):サツマイモであることであった。以下、幾つかを紹介する。
1.ねったくり:ねったんぽ
まず、県立南稜高校(以前の球磨農業高校)の鶴本先生からお便りから紹介する。「手作りで食べていたおやつは何ですか?」の問いに対する1年生の答えは、
多かったものから順に書くと、ねったんぼ、おはぎ、チマキ、ダゴの砂糖漬け、いもけんぴ、ぜんざい、饅頭、ゆでだご、大学芋、いきなり団子、豆乳ドーナッツ、いちご大福 、ポン菓子、きなこ餅、カライモ、スイートポテト、お嶽さん饅頭・・だったそうである。「ねったんぼ」「おはぎ」「ぜんざい」は多くの生徒が答えていたとのことで、昭和年代生まれの筆者納得である。また、水上出身の生徒は、中学校でお嶽さん饅頭をつくったとのことであるが、初めて聞く饅頭である。調べてみると、水上村の特産お土産品になっていて、正確には、「お嶽さん万十」である。本稿でも後ほど紹介する。
球磨には、昭和30年くらいまでしかいなかった筆者には、この「お嶽さん饅頭」もそうであるが、知らないオヤツ、初めて聞くオヤツがかなりあるが、覚えのある昔のオヤツもいくつかある。昔も今も人気だった「ねったくり:ねった
んぽ」であるが、あさぎり町議会議長の山口さんは、「練った食い」とか「練っ
たぼ」と漢字の名前で記憶されていた。
図1 ねったくり:ねったんぽ の材料と出来上がり(右端)
さてその作り方である。図1は、「ねったくり:ねったんぽ」を再現した時の主な材料である。左から、カライモ(サツマイモ)で、今回はホクホク食感のある鳴門金時をつかった。今日では、黄色や紫など鮮やかな色をしたカライモがあるから、それらを使えば色バラエティーに富む。次は、ご飯であるが、もち米を利用する方法もあり、あさぎり町の井上さんや鶴本先生宅ではそうだったようである。同じくあさぎり町上地区出身の皆越さんからは、米は使わずカライモと小麦粉だけのねったくりを紹介していただいた。さて、これらの情報をもとにご飯米を使った筆者の作り方を紹介しよう。
カライモ(さつまいも)は皮をむいて蒸す。蒸し上がり熱気がとれたらサイコロ状に切る。ボールに刻んだイモとご飯と小麦粉を好みに応じて入れ、かき混ぜながら潰し、潰しながらかき混ぜる。カライモの種類によっては、甘味が足りないので、加糖する。練って練ってネッタくり状態にするからその名があると思うが、それほど練らず、粒々感(つぶつぶかん)を残した状態にすれば素朴感が出る。形は、丸めて団子風にしてあるが、平らにのばし、好みの型で抜いてもよい。非常に粘り気があるので黄な粉を振りかけると、味も増す。さらにおまけの味は、丸めた「ねったくり」を平らにしてフライパンか網にのせ焦げ目をつけると、焼きダゴと焼きおにぎりの風味が出る。
2.いきなりダゴ
「いきなりダゴ」を昔懐かしふるさとの味とされた方もかなり多かった。関西会の増田さんからは、「・・子供の頃わが家では、おやつによく食べた記憶があります。母親が作っていたのか、父の姉が作っていたのか覚えないが、とても美味しかった記憶あります。作り方は、輪切りにしたサツマ芋を小麦粉で包み、蒸かしたもので、最近はお店で販売しています。」というお便りである。販売している?早速調べてみると、Wikipediaに「・・いきなり団子は、小豆の餡とさつまいもを練った小麦粉の生地でくるみ、蒸して作る熊本の伝統的な郷土菓子。地元の言葉では「いきなりだご」とも呼ばれる。サツマイモがゴロンと入るために甘さ控えめで素朴な味わいの菓子で、餡(あん)があれば短時間でささっと「いきなり」作ることが出来ることから、その名前がついたと言われている(名前の由来には諸説あり)。一般家庭で普通に作られるほか、熊本市内の和菓子店でも様々な味や形のものを売っている。もっちり、ほっこりとしていて、かつ甘すぎないので、気がつくと幾つも平らげてしまうようなそんな和菓子だ」とあった。また、高速道路の山江SAでは、カライモの代わりにクリが入った「いきなりダゴ」である「くりまんじゅう」や芋とあんこが入った「びっくり団子」が売られていることも分かった。この食べ物を筆者は再現してみることにした。
その作り方であるが、材料の主役は図2左に示すカライモである。脇役が小麦粉である。小麦粉で生地をつくり、カライモの皮をむき、それを蒸かすか煮て、厚さ5センチぐらいの輪切りにする。脇役の小麦粉に水を加えてダゴ生地をつくる。ふっくら感を出すためにはドライイースト(酵母)を1%ほど加えるが、昔から「ダゴ」という場合は、酵母や膨らし子粉(ベーキングパウダー)などはめったに使わなかった。若い人のためには、これらを使い、カライモだけでは足らない甘味を加糖する方がいいかも知れない。ただ今回の試作では、昔のダゴ生地で蒸しカライモの輪切り片をダゴ生地で包み蒸した。その出来上がりが図6の中央である。名付けて「いきなり唐芋ダゴ」である。右端は、今年の暮れに餅つきをしたとき、餡子の代わりにカライモを包んだ「いきなり餅ダゴ」である。
図2 いきなりダゴ、筆者の試作品、右端は「いきなり餅ダゴ」
(つづく:次回は、ミョウガ葉巻きダゴ、お岳さん万十、ユノス皮の甘煮)
杉下潤二 junji@siren.ocn.ne.jp