2018年7月28日
3.ミョウガの葉まきダゴ
今回の調査で、この「ミョウガの葉」を使ったオヤツの便りが幾つかあった。ふるさと関西会の種村さん、中部ふるさと会の恒松さん、八尾重さん、南稜高校の鶴本先生、筆者もその一人である。どんなものなのか、うろ覚えの方のために、筆者の試作品を紹介すればいいのだが、今は冬季、ミョウガの葉は朽ち果てているので、それはできないが、幸いなことに熊本市の「えびすや餅本舗」や「桝文」さんのプログに、図3に示すような「みょうが饅頭」の写真が出ている。これらから、「ミョウガ葉巻きダゴ」のイメージを思い起こしていただけると思う。この「ミョウガの葉まきダゴ」は、お盆の頃は必ず「盆ダゴ」として母が作ってくれていた。その頃のかすかな記憶を辿って作り方を紹介しよう。
図3 ミョウガ(左端)と、その葉巻きダゴ (写真:桝文・えびすや餅本舗プログ)
小麦粉で生地をつくり、餡(唐芋や小豆餡)を包み込み、水洗いしたミョウガの葉で三角に巻く。それを蒸し器でむすだけである。餡(あん)を入れない場合には生地に砂糖などを加えて甘味をつけてあった。このオヤツは夏から秋にかけての季節限定のオヤツで、夏ミョウガならば7月から8月のお盆のころ、秋ミョウガならば9月から10月の中秋の名月のころである。巻かれたミョウガの葉を取り除き、がぶりと口にするとミョウガの香りは「妙香」であった!
4.お嶽さん万十
先述したように、昔からのオヤツであった「いきなりダゴ」などは町おこしや活性化かに一役も二役も貢献している。長野県の「おやき」などはその典型である。「おやき」というのは、小麦粉やソバ粉などを水でといて練り、薄くのばした皮で小豆、野菜などを包み焼いた食品である。当初は、長野県の北信地方や安曇野地方の家庭で冬季における米の代用食として作られ、お盆の仏前供物であった。それが、駅などで売られるようになり、あっという間に長野県の名産品となった。
図4 「おたけさん万十」と作り方
球磨郡にも、昔からのオヤツが町おこしに一役買ってる例がある。水上村の特
産お土産品となっている「おたけさん万十」、図4である。これは、もち米と米の粉で作った外皮で、小豆の餡を包んだ焼き万十である。このオヤツは、水上村出身の南稜高校生が、最も手作りしたい食べ物に選んだものだそうである。
「おたけさん」とは、熊本の名峰、球磨の象徴山である市房山(標高1722m)を指し、水上村の人はもちろん、球磨の「おいどん達の霊峰」である。昔から信仰の山として地元住民から「御嶽(おんたけ)さん」と呼ばれ親しまれていたことが、この名前の由来である。昭和の初期までは、毎年3月16日に市房山に登り、4合目にある市房神社に参拝する「お嶽さん参り」が非常に賑わっており、その時に参拝者にふるまわれていたのが「おたけさん万十」である。しかし、昭和初期以降はお嶽さん参りが途絶え、この万十も作られなくなっていたが、平成8年に水上村の女性が「おたけさん会」を結成し、「おたけさん万十」を復活し、今では注文に応じ切れないほどの人気商品となっているそうである。その作り方であるが、水上村商工会女性部の方が「お嶽さん万十」の作り方を水上村BATA-Oプログで次のように紹介されている。
1)小豆は、会のメンバーで栽培した完全自家製「大納言」を使用し、ていねいに洗って準備する。
2)型に、もち米と米の粉を流し込みます。配分は企業秘密だそうである。
3)小豆の餡を乗せたツブ餡である。
4)両面をしっかり焼き、おいしそうな匂いが漂ってきたら、焦げ目を
確認しながらひっくり返すと完成!
5.ゆのす(柚子)皮の甘煮
高知県の安芸市あたりでは、柚子をしぼった原液を「ゆのす」というらしい。「柚子の酢」であるが「酢」の成分は全く含まれず果樹100%だそうである。しかし、人吉球磨地方では、大きい柚子のことを「ゆのす」という。現代の小さい柚子とは別種である。もともと「桃栗三年柿八年、柚子の大馬鹿十八年」と言われるくらい、「ゆのす」は実をつけるまでに時間がかかる果樹である。成長が遅いというより晩期大成型なのである。プランタでも着果する市販苗木は接ぎ木したものである。
球磨地方は、「ゆのす」とは柚子のことであが、これがオヤツなのか、オカズなのか、甘煮であるからおかずにはならず、やはりオヤツであろう。この食べ物については球磨地方出身の多くの方が記憶されていた。筆者も母が元気な頃は毎年作って送ってくれたし、次兄からも送ってもらったことがある。
図5 ゆのす(柚子)の皮(左)とその甘煮
旧上村出身で三重県在住の皆越寛子さんが、図5に示すような「ゆのすの皮の甘煮」を再現し、試食させていただき、作り方も教えていただいた。作り方はこうである。柚子の皮を1センチ幅位に切り(図5左)、それを水から煮るのだが、三回ほど茹で汁を変え、苦みをとる。この回数を減らすと苦みが残ってしまうとのことである。最後の段階で砂糖をいれて加熱し、沸騰したら弱火にしてヘラか杓文字で混ぜながら煮詰めるとできあがりである(図5の右)。甘さや辛味は好みで調整すれば家庭の味ができる。
切り倒されて今はないが、筆者の実家には大きな「ゆのす」があって、沢山の実をつけていた。柚子汁も絞った皮も干して保存、活用した。その一つが干したゆのす皮の甘煮であり、煮しめの具にもなった。使うときは、干した皮を一昼夜ほど水に浸して戻すのである。干す前に茹でてあるのでアクはほとんど抜けている。母が、ゆのすの収穫時期でもないのに、この甘煮を送ってくれたのは、この干しゆのす皮であったのだと、今にして思う。
(つづく:次回はポン菓子、甘茶、からいも飴)
杉下潤二 junji@siren.ocn.ne.jp