あさぎり町中部ふるさと会

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熊本県球磨郡あさぎり町出身者、及び あさぎり町と
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続 ふるさと探訪

2018年8月 8日

続 ふるさと探訪25 昔懐かしふるさとの味:グミ・サトガラ・ツバナ

10.グミ

 自然の果物をオヤツに食べた記憶は柿や栗ばかりではなく梨や蜜柑もある。
梨も、今日では品種も「幸水」とか「豊水」とか多様だが、まだ錦町には20世紀梨があるのだろうか、あの20世紀梨(なし)が瑞々しくておいしかった、懐かしい、と言われるのは錦町一武出身の高田さんである。それぞれの地の特産品がふるさとの味になっているのだが、グミは商品になるようなものではなかったが、グミが懐かしいという方も何人かおられる。

 グミとは、果汁などをゼラチンで固めた菓子、1980年代、明治製菓が発売して人気を博した「果汁グミ」のことではない。自然界の果物のグミのことである。果実の「グミ」は大和用語で、ドイツ語のゴムを意味するお菓子のグミとは全く別物である。グミの木は、我が家にも、叔父の家にも、関西会の八重子さん家にも、図10に示すような、小指ほどもある大きなびっくりグミの木があった。知らなかったが「びっくりグミ」は「ダイオウグミ」ともいうそうである。びっくりグミに似た「西洋グミ」というのもある。古来日本のグミより大きく新品種だからその名があるのだろう。グミは熟さないと渋いが、真っ赤に熟すると口に入れてもとろけるように種だけが残る。熟するのは麦秋のころで、幾つかまとめて頬張ればいいものを、グミに筒状の麦わらを刺し、汁を吸い取った記憶が筆者にもある。
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          図10 グミの木・びっくりグミ・グミジャムの例

11.サトガラ(いたどり)

 サトガラ(イタドリ)もオヤツであった。サトガラ(イタドリ)は、タデ科の多年生植物で、別名はスカンポとかイタンポと言い、この名は、茎を折るとポコッと音が鳴り、食べると酸味があるからとも言われるが九州ではサトガラと言う。サトガラ(イタドリ)は、北海道西部以南の日本や台湾、朝鮮半島、中国に分布する東アジア原産種の植物であるが、現在は、「世界の侵略的外来種ワースト100」の中の一つである。とにかく繁殖力が強く、19世紀にイギリスに輸出されたが、この地下茎がまたコンクリートやアスファルトを突き破るほど被害を与え、イギリスの銀行は、その土地にイタドリの生えている痕跡が認められると、土地を担保にローンを貸してくれないほどであったという。アメリカでも同様に被害が出ているが、日本では、ワラビ・ゼンマイ・タラ・木の芽とならんで山菜として親しまれている。
 サトガラは生でも食べられる。サトガラをオヤツ替わりに食べたという便りも何人かの方から頂いた。筆者も、山野に出かける遠足では、道端のサトガラをポキット折って皮むいてかじったものである。塩などをつけると酸味は和らいでおいしかった。沢山とれたときは塩漬けにして保存、塩漬けすると酸味も消えて食べやすくなる。一年くらい塩漬けをしたのを戻して食べても酸味は気にならいという便りもあった。サトガラの酸味を抜く方法は、さっと茹でてから皮を剝き、水に1日くらい浸しておけば大体抜ける。しかし、サトガラにはシュウ酸が多く含まれているので水を2〜3回換えたほうが酸味成分は抜けやすいとのことである。
 サトガラの食べ方について、知多市在住の里山ある子さんのキンピラ、高知県
在住の文太さんの炒め煮を紹介しよう。前処理として、サトガラを沸騰寸前のお湯に暫くつけ、あげて冷めたら皮をむき、約40度の湯に浸しおく。時間は酸味の好みによって半日から一晩である。これをベースに、キンピラや煮物にしたも
のが図11である。
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   サトガラ    皮むき茹で     キンピラの例    炒め煮例
                図11サトガラと調理の例

12.ツバナ(チガヤ)

 ツバナがおやつ?と思われる方があるかも知れないないが、お腹を満たすような食べ物ではなく、道端を歩きながらのつまみ食いした草である。多良木のペンネーム百太郎さんから、百太郎の土手でツバナを抜いては食べていた頃の話をしていただいたが、たぶん、多くの方が経験されたことだろう。
 ツバナ(図12)は、万葉集では「茅花:ちばな」と書いて「つばな」と読ませている。ツバナは、イネ科の多年草で、野原や川の土手、道端などに広く群生する。春先槍のように細い鞘に花穂を包むが、この膨らんだ若い花穂を茅花(つばな・ちばな)という。初夏この鞘をほどき銀色の美しい穂をなびかせる。ツバナの部分の穂には、 微かな甘みがあることから、昔から子供のおやつとして食べられてきた。実は、子供のオヤツばかりではなかった。奈良時代、万葉集が編纂されたころでもツバナが食べられていた。そんな歌が万葉集の恋歌(相聞)の中にある。
原文:「 戯奴 之為 吾手母須麻尓 春野尓 抜流茅花曽 御食而肥座 」
作者: 紀女郎(きのいらつめ)  万葉集 巻8−1460 春相聞
よみ:「戯奴(わけ)がため 我が手もすまに 春の野に
          抜ける茅花(つばな)ぞ 食(め)して肥えませ」
歌の意味は、「そなたのために私が手を休めずに春の野で抜き取った茅花(つばな)ですよ。これをたんと召し上がってお太りなさい」。この紀女郎(きのいらつめ)という人は、大伴家持(おおとものやかもち)の先輩の奥さんである。家持より年長の女性で、家持の体形を気遣うなど、気のおけない間柄だったようである。
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            図12 ツバナ(チガヤ)
これに対して、大伴家持の返歌がこれである。
原文: 「吾君尓 戯奴者戀良思 給有 茅花手雖喫 弥痩尓夜須」
作者: 大伴家持(おおとものやかもち) 万葉集 巻8−1462
よみ: 我(あ)が君に、戯奴(わけ)は恋(こ)ふらし、賜(たば)りたる、茅花(つばな)を食(は)めど、いや痩(や)せに痩(や)す
歌の意味は、 あなたに私は恋をしているようです。いただいた茅花(つばな)を食べても、ますます痩(や)せてしまうのです。
 
 どうやら、家持(やかもち)は痩せ型だったことが、二つの歌から想像できる。私が一向に太らないのは貴女に恋煩(こいわずら)いしているせい、と面白おかしく切り返した家持である。このように、万葉集の奈良時代にも、ツバナは食べられていたことがわかるが、ツバナでは、いくら食べても太らないと思うのだが、昔のツバナは栄養価が高かったのだろうか、紀女郎さんに聞いてみたい。

13.ニッケ

 ニッケ・ニッキ・ニッケイ・肉桂、そして、ニッキ水・ニッキ玉・ニッキ飴・読者諸氏はどの名が今も記憶におありだろうか。ニッケ・ニッキ・ニッケイは、ニッケイ属、クスノキ科に属し、図13左端に示すような三本の葉脈が見える常緑樹である。分布は熱帯から亜寒帯であり、日本へは、江戸時代の享保年間にインドネシアあたりから持ち込まれたらしい。枝葉や幹や根、どこも
 シナモンの香がし、生葉を小さく刻みお湯を注ぐと香のよいティーとなる。付言しておくと、「シナモン」は葉の幅が日本産より広いセイロンニッケイの枝皮を乾燥させたものである。図13中央は根で、先端の細かいヒゲ根の部分が一番価値のあるところである。「・・道端でニッケの根をほじくって食べよったとよ!」とは、旧岡原村出身の楢木静代さんの弁である。
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図13 ニッケの葉と根  (右端図の出http://www.kusaki.net)
「ニッケ」には、筆者にも忘れられない思い出がある。学校に行く途中の道の垣根にそのニッケの木があった。今のような舗装道路ではないからニッケの根が垣根の下から道端へ伸びているらしく、手でほじくるだけで掘り出せた。何人かで掘っていると垣根の内側から怒鳴り声がすると走って逃げた。住人の方にしてみれば、垣根は傷み、壊されるわけだから当然の叱りであった。
 それは昭和24年頃のことであるが、それから65〜6年経った頃、旧免田駅舎はポッポ館として利用されるようになっていた。そのポッポ館であさぎり町中部ふるさと会と地元との交流会が開催された。そのとき、宴席が隣同士であった地元の方と思い出話をしていて、筆者は、さっきのニッケの根をほじくった話をしたのである。「あっ!そこで怒鳴ったのは私のオヤジですよ!今でもあの木、あります!」と言われてびっくり仰天、奇遇とはこのようなことかとチョコ(焼酎用の杯)を手渡し交換しながら談笑した。 

名古屋へ帰る日の早朝である。実家の玄関先で「こいばあげてくだい!」という声が聞こえたが、すぐ帰られたみたいでお礼言う間もなかった。「何かくれやったばーい!」の声で包みを開けてみると、なんとニッケの根(図13の中央)であった。後でお名前が分かったのであるが、その方はあさぎり町岡原北の宮原辰則さんである。この時、改めて故郷はあたたかいと思った。
(つづく:次回は、ギシギシ、ふつ餅、ぼた餅)

杉下潤二junji@siren.ocn.ne.jp


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