2018年8月11日
13.ギシギシ
ギシギシはタデ科の多年草である。道端や田の畔(あぜ)などに生え、日本全国に分布する。ギシギシの根は、羊蹄根(ようていこん)または、「しの根」といい、止血効能のある生薬である。「ギシギシ」という名前の語源は、茎をすり合わせるとギシギシという音が出るからという説があるが、筆者の経験では、そんな音は出ない。ギシギシには二種類あるようで、ギシギシとも呼ばれる「スイバ」と「ギシギシ」である。この違いを図13に示した。左端が「スイバ」とも言われるギシギシ、右端が「ギシギシ」である。「スイバ」の方が「ギシギシ」より酸っぱいので、その名があるのだろう。繁殖力はギシギシの比ではなく、日当たりのいい堤防に群生している。それにしても、「ギシギシ」という人吉球磨地方での呼び名が正式な植物の学術名である例は大変珍しい。
図13 ギシギシのいろいろな生態
図は、真冬の大寒の頃に撮影したものであるが、「スイバ」も「ギシギシ」も、真冬でも青々とし
た葉っぱである。これが、春先になれば、図のように茎が伸び、夏には花実ができる。
「道草を食う」というたとえがある。馬を運動や仕事のため外に連れ出し、道を歩かせていると、馬は必ず道端の草をはみ、先に進もうとはしない。おなかの空いた牛でもヤギでも同じである。転じて、目的地へ行く途中、他のことで時間を費やし、手間取ることをいうのであるが、筆者らが子供の頃は、道草を食っていた。前述した「サトガラ」や「ツバナ」、そしてこの「ギシギシ」をかじっていた。よくかじって食べたのは茎の部分で、塩を少しつけると酸味も薄まった。オヤツではなく、やはり「みちくさ」の楽しさであった。
座和さんの「山菜料理のレシピ」から、ギシギシの二品を紹介しよう。1)ギシギシのマヨネーズ添え:ギシギシを洗って茹で、水気を良く切って、適当な大きさに切り、マヨネーズを添えたら完成。2)ぎしぎしの一夜漬け:ギシギシをビニール袋に入れ、塩もみし、そのまま冷蔵庫で1日置く。次の日には出来上がり。これは簡単であるが、千葉県の会田さんは、鞘を取って細かく刻み油炒め、茹でて味噌和え、酢の物、味噌汁の具、それにヌカミソ漬けや味噌漬けもできると教えていただいた。
14. ふつ餅(よもぎ餅)・ぼた餅
「ふつ」とは、福岡県や熊本県では「ヨモギ」のことである。万葉集にもヨモギの出ている歌が一首だけある。大伴家持の「・・蓬(よもぎ)を縵(かずら)にして酒宴・・」という長歌で、ヨモギを頭に乗せて飾り酒宴をしたというものである。ヨモギは、キク科の多年草で、日本全国いたるところに自生している。 別名、「モチグサ:餅草」ともいうから、「ふつ餅」も昔からつかれ、食べられていたのだろう。
図14 ふつ餅(ヨモギ餅)(左)・ぼた餅・きな粉餅
福岡県南部の太宰府や熊本県北部の山鹿あたりでは、ふつ餅(よもぎ餅)が有名で、そこらあたりに旅行するときは、必ず買い求めるというのは錦町の近藤さんである。太宰府天満宮のふつ餅「よもぎの梅が枝餅」、山鹿市ふつ餅:「よもぎ団子」は有名である。
図14は、そのような有名店で売られているようなものではなく、どこの家
庭でも作ってもらったことのある「ふつ餅」(左)である。「ぼた餅」も、「き
な粉餅」も昔懐かしい!と言われる神戸在住の英典さんのために、それらを図
右に示した。この「ぼた餅」であるが、中身や味は同じなのに、ボタンの花咲
く春は「ぼた餅」、萩の花咲く秋は「おはぎ」。こし餡は「ぼた餅」で、つぶ餡は「おはぎ」などと指摘されているが、筆者は、ぼた餅がボタンの花に似ているとか、おはぎが萩の花に似ているとはどうしても思えない。関西在住のMさんも、昔懐かしいのは「おはぎ」というより、もち米のおにぎりを小豆の餡子で包んだ「ぼた餅」だったという。
「ぼたもち」を町おこしのキャッチフレーズにしている町がある。八代市の坂本町である。そこの坂本駅は肥薩線の特急かわせみ やませみが八代の次に停車する駅で、葉木、鎌瀬駅を過ぎた所が有名な球磨川第一橋梁である。この町で毎年11月に行われる「坂本ふるさとまつり」のサブタイトルは「ぼたもちと自然の恵み」である。ここの「名物ぼたもち」を図15に示すが、一見、きな粉餅風に見えて何の変哲もないようである。しかし、作り方は、炊いた餅米にカライモを入れて「ねったくり」、それを皮にして粒あんを包み込み、きな粉をまぶしたものだそうである。まつり当日は即売され、販売所の前には、同図右端のような行列ができるそうである。坂本町出身で現在、岐阜にお住まいの本村英輔さんから次のようなぼた餅の便りをいただいた。
図15 坂本町の「ぼたもち」
「私が育った八代市坂本町では、ご存知の事と思いますが、「ぼたもち」が有名です。坂本駅にも「ぼたもちの町・坂本」のポスターが掲示されています。毎年秋坂本駅周辺で開催されるふるさと祭りでは、すぐに売り切れになる人気商品だそうです。昨年末100歳で他界しました、母親がよく作って食べさせてくれたものです。作り方は、地区により流儀があるようですが、我が家では、「もち米・サツマイモ・ヨモギを蒸したものを一緒に臼でついて、餅にして外側をあんこや、きな粉でくるんでいました。サツマイモの甘味とヨモギの風味でとても、美味しかったです。こちらでは、おはぎのことを「ぼたもち」と呼ぶところもありますが坂本では、「ぼたもち」と「おはぎ」は別物です」。
この「ぼたもち」と「おはぎ」の違いについて、後日、また、次のようなお便りをいただいた。
「ぼたもちとおはぎの違いは、坂本町では、ぼたもちはもち米・サツマイモ・ヨモギを蒸した物を臼でついて餅にします。おはぎは、もち米を炊き、炊きあがったものをすり鉢等に移して米粒が残る程度に潰します。要するに、もち米を蒸すか炊くかまた、つく」かつぶすかの違いだと思います。詳しくは分かりません、もっぱら食べることが優先でしたので・・・・・」。
(つづく:次回は、雀の卵、ラムネ、サイダー)
杉下潤二junji@siren.ocn.ne.jp